「デフレの正体」の読み方について

今話題の(というより、出た直後からかなり話題になっていましたが)「デフレの正体」については、
去年から2.5回ほど(2回の通読とポイント読み)読んでいます。
この本、その内容について考えれば考えるほど、いろいろなことを考えていくヒントが得られるような気がします。


先日(1月12日)、日経グローカルセミナーで著者の講演を聴きました。
いろいろな発見があったのですが、この本の内容の基本的な理解の仕方について、改めて自分なりの理解が得られ
ましたので、独断と偏見を承知の上で書いてみたいと思います。


著者の最大の強調点である「生産年齢人口の増減が様々な世の中の状況を左右する」という点は、誰もが納得する
合理的な説明です。
しかし、なぜ日本だけがこんなに深刻な状況になっているかについては、私に他の国の知識がないせいもありますが、
今一つ腑に落ちない気がしていました。


先日の講演で著者の示す「年代別の人口構造の、時間と共に変化する推移」(⇒「波が動く」スライド)を見ていたとき、
ふと、こんなことを考えました。


団塊の世代」や「団塊ジュニア世代」を中心とした「突出した世代」は、日本の人口構成の中での特殊な
(=イレギュラーな)“世代”である。
しかし、その特殊に膨らんだ「限定された世代」が「活発に消費する年齢」になったとき、その異常な膨らみに
引っ張られる形で日本の消費者需要が大きく拡大した。
消費者需要が大きく拡大するに伴い、「活発に消費する世代=活発に稼ぐ世代」なので、それを満たすべく、産業の構造
内需型産業を中心に大きく拡大した。
さらにそれが輸出にも回るようになり、日本全体の生産が大きく拡大した。
そして、社会の様々な仕組み・制度もそれに合う形でつくられた。


しかし、この「異常な膨らみの世代」の消費行動が加齢によって減退したとき、この世代の特殊性を特殊性と
みなさないままにつくられた産業構造・社会の仕組みなどが、現実に合わなくなってきた。
しかも、医学の進歩によって、これらの「異常な膨らみの世代」が長期間にわたる「福祉の需要者」になるとき、
それを支えるべき世代は、「異常な膨らみ」には大きく及ばないために、“数”ではとても支えきれなくなった。
また、「異常な膨らみの世代」の寿命が延びるにつれ、この世代に富が“滞留”するようになり、下の世代
に回りにくくなり、社会構造の矛盾が拡大することとなった。


もう少し大ざっぱに言うと、「団塊の世代」「団塊ジュニア世代」を中心とする「特殊な人口増の世代」が
登場し、それが「活発に稼ぐとともに、活発に消費する」年齢になったとき、日本の産業構造がそれに大きく
引っ張られる形で、内需型産業構造に変わっていった。
この一時期は、全体の中で人口が突出し、これらの世代が消費と稼ぎの両方の行動を活発に行う点で、
大きな「フローの世代」(=大きく入れて、大きく出す)が中心になった時代と言えるでしょう。


その世代が年をとることによって、まず消費をしなくなる(=フローの出す方が細ってくる)。
そのことによって、消費需要が小さくなる。
もっと年をとってくると、定年になって、稼ぎもなくなる(=フローの入れる方も細ってくる)。
しかし、産業自体は、機械化・効率化によって、これらの世代の減少のマイナスを見事に吸収していった。
ところが、効率化した産業が得た利益は、それを得る権利(=株式など)の形で配当されるので、それを
“受け止める権利”をもつ(=株式などの資産を保有できる余裕がある)これらの世代に集中せざるを得ない。
そうなると、これらの「突出した世代」は、富を受け止めてもそれを外に出さないという意味で、
「ストックの世代」に変わってしまう。
さらに、「ストックの世代」になるだけでなく、高齢化・寿命の伸びにより、医療費や年金などを他から
吸収するだけという意味で、「社会に負担をかける世代」に変質していかざるを得ない。


つまり、これまでにない“数量”として登場した「団塊の世代」「団塊ジュニア世代」を中心とする世代
が、生れて成長し、
 (大きな)「フローの世代」
    ↓
 「フローの一部が細る世代」(消費=「出す方」が細る)
    ↓
 「ストックの世代」
    ↓
 「社会に負担をかける世代」(意図的ではなく、結果として)

と変質したにも関わらず、それに対応しきれない日本の産業構造・社会構造・制度に問題があると
理解すればよいと思います。

このように、考えていくと、著者の問題点の指摘と、「だからどうすべきか?」の根本的な必要性が、私には
より一層理解できるような気がします。


わかっていた方にとっては当たり前かもしれませんが、自分なりにこう理解したことで、かなり“腑に落ちた”
感じです。


話は変わりますが、先日の講演中、藻谷氏が、このような消費需要の大きな減退にも関わらずに相変わらず
「供給増を続ける」マンション・オフィス業者に、警鐘を鳴らしていました。
豊島区の新庁舎計画では、庁舎上部の大量のマンションを民間2社がまとめて購入し、“高値販売”を
狙うそうです。


余計なお世話ですが、目論み通りに完売できます?