「社会資本の老朽化への対応」を議論する意味

9月17日、日経グローカルセミナー「社会資本の老朽化とPPPの活用」を聴講しました。
講師は、この分野で著名な東洋大学・根本祐二教授です。


話の内容は(あくまで私のポイント整理ですが)、
 ・従来は社会資本(学校・住宅などの公共施設、道路、橋、上下水道など)をつくることが中心
  であったが、つくってから何十年か経過した今日、その“更新”が大きな問題と言える。
 ・これまであまり問題視されていなかったために、「何がどれだけ老朽化しているか?」といった
  詳細なデータが不足しているが、現在の資本ストックを50年間平均で更新すると仮定すると
  (道路は15年とする)、更新コストとして1年に8兆円が必要であり、現在の投資額から見て
  1年で6兆円が不足する(つまり、円滑な更新のためには6兆円が新たに必要)。
 ・早急に「公共施設マネジメント白書」などを作成して実態把握をするとともに、各施設の費用対
  効果情報を開示して、「更新するか、しないか?」の政策判断を行う必要がある(国・自治体とも)。
 ・“先行事例”として挙げられる藤沢市では、同白書を作成した上で、ハード(公共施設などの
  社会資本)の運営・更新なども含めた民間からの事業提案制度を実施(全ての事業が対象)。
  審査を経た上で近日中に結果を公開する。
 ・その他、民間提案の事例・手法の紹介
などです。


席はほぼ満杯で、この問題に対する関心の高さを示していると言えます。


以下、講演をお聴きしてのコメントです。


1.これからの自治体においては、「健全で合理的な危機感の共有」が必要!


  学校など、恒常的に多くの利用者がある施設では、常に「利用者の声」があるので、「何年後に
  改築するか?」(=更新)が比較的テーマになりやすいと言えます。
  しかし、「全ての公共インフラ」を考えた場合、これまで問題にされてこなかった分、今後の
  大きな課題になることは間違いありません。
  まずは実態把握のために、公共施設マネジメント白書などの作成・分析が必要と痛感しました。


  それとともに、将来的な人口減少が確実な中、セミナーの内容にもあるように、重要なのは
  「更新しない施設を明確にする」ことです。
     人口減
      ↓
     利用ニーズの総量が減
      ↓
     必要施設数が少なくて済む
  だからです。
  同白書の作成と情報公開は、自治体とそこに住む住民との間で、「自治体は、どんな施設を
  どこまで整備すべきか?」、もっと言うと、「自治体の仕事はどこまでか?」を議論する
  よい機会になるとも言えるのではないでしょうか?


  人口減だけでなく、一般に税収の減も想定される中、「これからは大変だ!」と叫ぶだけでなく、
  冷静に今後を考えていく上で、「健全で合理的な危機感の共有」を進めていく必要性を感じました。


2.民間のアイデアが活かせる仕組みづくりが必要!


  藤沢市の提案制度、とりあえずアイデアに制限はかけていないようなので、「どんな提案が出て
  くるか」、非常に興味があります。
  根本氏の講演にもありましたが、現在の日本では、「民間のアイデアが活かせない制度的制限」が
  結構あるようです。
  

  もし、藤沢市における提案が現行制度に抵触する場合どうするか?
  以前の「構造改革特区」などのような形で、大いに問題提起してもらいたいと思います。
  政権交代後に安定的な政権運営を目論む民主党政権にとっては、そのような提案を受け入れることが、
  “格好のアピールポイント”になるのでは?


3.ムダな公共事業・公共投資を抑止する、よいきっかけになる!


  今回のテーマのような冷静な議論に関係なく、我が豊島区をはじめ、議員や行政関係者の中には、
  相変わらず「ハコモノ建設というエサを目の前にぶら下げて、住民の支持を得ようとする」風潮
  が根強くあるようです。


  上記の白書や情報公開で多くの住民と議論をし、危機感を共有することは、このような
  「ハコモノ志向」を打破するよいきっかけになるのではないでしょうか。


  理想は、自治体の選挙におけるマニフェストにうまく組み込み、「ハコモノ志向」の政治勢力
  から主導権を奪い取ってしまう。
  そして、その上で、住民意識・政治風土も含めて根こそぎ変えてしまうことです。


  ただ、こと選挙となると、バラマキ・拡大志向がどうしても“ウケがよい”というのが課題です。
  この辺をどう乗り切るか、自らの課題として考えていきたいと思います。