練馬区の“事業仕分け”
8月28・29日の両日、練馬区の“事業仕分け”を見てきました。
「東京23区で初の事業仕分け!」などと報道されていましたが(例えば、
http://news.tv-asahi.co.jp/ann/news/web/html/200828036.html)、当の練馬区は「事業仕分け」と
いう言葉は一言も使っていません。
これは、事業仕分けの“大御所”である構想日本の支援を得ずに、「独自の道を歩む」(?)選択をした
からでしょうか?
それはともかく、「練馬区が事業仕分けを考えているらしい」というのは数年前から一部で話題に
なっていたので、どんな形になるか、関心をもっていました。
今回は、全ての対象事業を見たわけではありませんが、両日で計6事業を見ました。
以下、気づいた点等のコメントです。
1.結論には、最初から「廃止」がない!
受付で資料を渡され、表紙をめくると、結論の区分が書かれていました。結論は5つの区分で、
・事業の必要性が低い
・民間が行うべき
・協働・委託化・民営化(のさらなる推進・拡大)
・区が行うが要改善
・現状維持で区が行う
となっています。
通常の事業仕分け(構想日本の指導・支援のもとに行うもの)では、最も厳しい判定は、当該事業
について「不要」(=廃止する)というものですが、ここでは上記の通り「事業の必要性が低い」です。
後で練馬区がどのような“事後対応”をとるかわかりませんが、この「必要性が低い」は、「後で限り
なく曖昧な解釈ができるのでは?」と考えるのは、私だけでしょうか?
評価者が「廃止すべきだ」と考えて結論を出したとしても、「必要性は低いが、ゼロではない」と“解釈”
され、当該事業の存続の理由にされてしまう恐れはないのでしょうか?
事業仕分けは、やった後に結論が一人歩きする傾向にあるとも言えるので(私の認識)、行政側が後々
の都合を考えてこのようなグレーゾーンを設けたのでは、などとつい勘ぐってしまいます。
この点は、私の杞憂かもしれませんが、曖昧な結論の出し方は、やはり避けるべきと考えました。
2.事業ごとの結論の内容が、(必ずしも)明確になっていない(⇒評価者の間で共通概念となっていない?)
「評価者の考えている内容と、出した結論の区分が、合わないのでは?」と感じることがあり、ちょっと
気になりました。
例えば、「指定保養施設事業のあり方」。
この事業、練馬区が指定する民間のホテルを区民が利用する場合、1泊について4,000円の補助を出すという
事業です。
ある評価者の方は、事業の必要性に疑問を唱えられた上で「民間が行うべき」との結論を出されましたが、
これは「補助金を配る事業」なので、「民間」という結論は「補助金を配る主体が、区でなく、民間になる」
ということになります(“構想日本式”事業仕分けからの類推)。
ですから、この場合は「民間」という結論自体があてはまらないか、「民間のホテルが、練馬区民だけを対象
に特別割引をする」ということになるはずです。
上記の「民間」との結論を出された評価者の方、議論の流れからすると、事業の必要性自体に疑問を呈された
のですから、結論としては「事業の必要性が低い」(「廃止」に近いという意味で)が適当ではないでしょうか?
現に、そのような意味で「事業の必要性が低い」との結論を出された方もいらっしゃいました。
このような“誤解”を防ぐため、構想日本の事業仕分けでは、よくコーディネーターが、「この事業の場合、
民間というのは、○○ということになりますね」と、前もって概念の統一を図ります(私は、よく見かけます)。
事前に意思統一するか、コーディネーター役の方が配慮するか、何らかの対応が必要だったと思います。
もっとも、このような“誤差”の発生には、上記1の「廃止がない」ということも影響しているのかもしれませんが・・・
3.議論が、「本来やるべき議論」の内容から若干外れる傾向があった!
構想日本の事業仕分けでよく言われることですが、「事業の名称や目的に振り回されることなく、当該事業の
妥当性に絞って議論すべき!」という重要な前提が、事業仕分けにはあります。
言い換えると、事業の名称や目的がいくら崇高なものであっても、その事業の内容自体が意味のないものであれば、
その事業の評価自体は厳しくやるべき、ということです。
この観点から見ると、今回の議論の中では、ちょっと「?」と思われる部分があったと思います。
(あくまで私の感想です。また、全ての議論がそうだというのではありません)
例えば、「次世代経営者の育成」では、議論の本質は、「区内企業の後継者育成」の是非ではなく、「今やって
いる補助事業のあり方の是非」なはずですが、ちょっと本質から外れ気味の場面があったあったように感じました。
「関連するのだから、ちょっとぐらい外れてもいいじゃないか?」という考え方もあるかもしれませんが、議論の
焦点がぶれると、出される結論に影響してきます。
この事業の場合だと、補助事業のあり方だけではない点が幾分加味されたと感じたのは私だけでしょうか?
この点も、「(構想日本の)事業仕分けと比べて」気になりました。
4.評価が“甘め”?
これは人によって見方が異なるかもしれません。
でも、私は少なくともそう感じました。
区のHPによれば、今回の評価者(=仕分け人)の方々は、全て区の行政評価委員とのこと。
だとすれば、事前に行政側との接触の機会が多いはずであり(悪い意味ではなく)、「ガチンコの対決」と
いった“空気”がつくられにくくなるのでは、などと考えました。
或いは、理由として、上記1〜3も関連するかもしれません。
1のように結論が最初から“控え目”だったり、議論や結論が人によって変わったりなどすれば、最終結論
に当然影響が出るはずです。
事業仕分けは、
「対決型の議論をすればよい」
「廃止の結論が多いほどよい」
訳ではありませんが、行政内部によらない「外部の厳しい判断」がそのニーズの基底にあるはずです。
「冷静に」
「緊張感をもって」
「厳しく」
という姿勢が必要だと改めて感じました。
5.その他、感じたこと
今回評価に当たった方々(=仕分け人)、1チームの構成は、
学識経験者 1(コーディネーター役。もう1人が加わることもあり)
実務経験者 2
公募区民 2
とのこと。
率直な表現で失礼ですが、「仕分け人のレベル」としては、決して構想日本の仕分け人に劣らないと
思います。
しかし、
・コーディネーターのあり方:論点を絞って議論を深めていく。
・仕分け人のあり方:上記の流れに沿って、問題点や課題を素早く見つけて議論していく。
などの点で、私がこれまで見てきたり一緒に仕分けをさせていただいた構想日本のベテラン仕分け人
の方々の方が、熟練度が上だと感じました。
まあ、これは“慣れ”が主因でしょう。
練馬区が「独自仕分け」をどう“進化”させていくのか、注目したいと思います。
6.「事業仕分けの今後」についての、ちょっとした懸念
もう一つ、今回の仕分けを見ていて、ふと懸念が頭をよぎりました。
今回の練馬区の“仕分け”に触発されたどこかの自治体が、自分の都合のよいように“改造”した
「勝手な仕分け」をやるということもあるのではないでしょうか。
来年は統一地方選挙ですから、
「自分にマイナスとならない形で、行革に対する厳しい姿勢(だけ)を、住民向けに見せておく」
などの“悪だくみ”(?)は、私でもすぐに思いつきます。
(もちろん、私はそのような立場にありませんので、そんなことには加わりませんが)
例えば、
・結論に最初から「廃止」を入れない(⇒別の表現でごまかす)。
・対象事業は、「廃止」の可能性が小さく、「要改善」になりそうなものだけを選ぶ。
・仕分け人は、できるだけ行政側に協力的な人間を選ぶ。
・仕分けの議論の中では、「要改善」のポイントについて、「民間・住民との協働」を殊更強調
させ(特に仕分け人側から)、行政側が「是非一緒にやっていきましょう!」などと、
「住民に開かれた行政の態度」を演出する。
などは、充分考えられます。
「事業仕分けを意味のある形で普及させていく」ため、このような“似非仕分け”には目を光らせて
いかなければならないと考えました。