豊島区の新庁舎計画について

先日(4月27日)、豊島区の新庁舎計画における基本設計の内容が発表されました。
まさに“鳴り物入り”といった感じで、議会への説明の後、記者会見がありました。
    ↓
 記者会見の内容等は、
  http://www.city.toshima.lg.jp/koho/hodo/018462.html
 その中で示された、新庁舎の基本設計の内容は、
  http://www.city.toshima.lg.jp/dbps_data/_material_/localhost/030shisetsukanri/030choshakensetsu/kihonsekkei-gaiyou.pdf
 上記も含め、これまで示された内容の一覧は、
  http://www.city.toshima.lg.jp/kusei/chosha/index.html


今回の計画、もともと小学校だった区の土地を核として周辺の私有地をまとめ、
市街地再開発の手法で建物を建て、その中に庁舎を組み込もうというもの。
区も含めた土地所有者の“出費”をできるだけ少なくするため、庁舎の上部に
分譲マンションを多数つくって売ることを想定しています。
このため、一つの建物として見たとき、1階から9階までが庁舎(一部商業部分
あり)、その上の11階から49階までがマンションという構造になっています。


これまで、このブログも含めて何度か触れてきましたが、基本設計という具体的な
イメージが示されたので、改めてコメントします。
なお、予めお断りしておきますが、以下のコメントは、基本設計にあたられた隈研吾氏・
平賀達也氏等に向けることを意図しておりません。
両氏を含め、基本設計に努力された方々は、あくまで「豊島区が考えた新庁舎計画」
を基本として知恵を絞られたはずです。
従って、「庁舎をどう考えるか?」という観点からの不適切な点は、専ら豊島区に
責任があるのであり、私のコメントも基本設計の依頼主である豊島区に向けたもの
です。


1.そもそも庁舎はどういう場所だと考えるべきか?


 これまでも何度か指摘してきましたが、基本的に庁舎は「事務所」です。
 というより、「『事務所』に過ぎない」と考えるべきです。
 地方自治法にも、「事務所」としか書いてありません(第4条)。


 しかし、こと「自分のまちの庁舎」となってくると、どうもこの辺が理解できない
 方が多いと感じます。
 「どんな庁舎がよいか?」という議論になってくると、
  ・まちのシンボル
  ・住民自治の拠点
 などといった、庁舎の基本的な機能とは関係のない言葉に“酔う”方が多い気がします。
 (というより、庁舎をできるだけ大きな公共事業に仕立て上げようとする人間にとって
  は、この辺が「多くの人を巧みに乗せる手」なのかもしれません)


 その結果、本来庁舎がもつべき基本的な機能を超えて、「あれもこれも必要」となる。
 住民が集まれるように広いスペースが必要だとか、住民活動の場・交流の場となる
 「○○センター」「○○広場」などが必要だとなり、次々と“追加”が出てくる。
 そして、結果として、「大きなお金のかかる庁舎」(建設費・維持費等)となる。
 大体、庁舎は各自治体の“一等地”にあることが多い(?)でしょうから、
 「面積が大きくなる→コストが大きくなる」となります。


 今回の豊島区の計画でも、「いざとなったら防災等にも利用する」というものの、
 そもそも庁舎の中に
  「コンサートやレクチャーといった活動に利用できる」
  「展示会や発表会といった活動に利用できる」
 天井の高いひろば(上記基本設計のP4)が必要なのでしょうか。


 また、庁舎の機能に、「豊島区域の自然環境や生態系を体感し、学び、育める環境
 文化の拠点、施設全体で計画」する(上記基本設計のP5)といった点をわざわざ
 盛り込む必要があるのでしょうか。
 環境や文化を学ぶというのであれば、庁舎以外に相応しい場所は他にいくらでも
 あると思いますが・・・


 基本的に、
   余計な機能を追加しない
     ↓
   その分スペースが要らなくなる
     ↓
   コストが小さくなる
 ですから、「庁舎のそもそも論」に立ち返って浮いた分のお金は、他の必要な歳出に
 回すべきと考えます。
 教育・福祉等、「もっとお金をかける分野」は他にたくさんあるはずです。


2.「世界に誇れる庁舎」を区民はどう受け止めるか?


 今回の発表において、「世界に誇れる環境庁舎」(上記基本設計のP1)とあります。
 たぶんこの言葉、現区長にとって“自慢の種”だと推測します。
 しかし、庁舎という単なる建物(上記1からすれば、単なる「事務所」ですので)を
 “世界に誇る”という感覚、私にはちょっと理解できません。


 記者会見の前にあった議会への説明の際にも発言したのですが、庁舎ばかりが
 “世界に誇れる”ものであっても、区民の実生活・意識・生活実感などといったもの
 が“世界に誇れる”でなければ、区民にとっては意味がないのではないでしょうか。
 もちろん、区民の生活をないがしろにして庁舎をつくるつもりではないのでしょうが、
 庁舎計画の説明に「世界に誇る」をまっさきに使うのは適切とは思えません。


 まあ、逆に言うと、庁舎計画でこのような目標を掲げた以上、今後様々な場面で
 「庁舎だけ“世界に誇る”をめざすのはおかしい。それよりも、今現在充実していない
  ○○の分野を充実させるべき」と指摘された場合、言い訳が難しくなると思われるので、
 これを“奇貨”として区政の改善を図るという“作戦計画”も考えられます。


3.改めて思う「コンパクト庁舎」の必要性


 上記1の考えから、私は以前から「コンパクト庁舎」という考え方を主張していました。
 ポイントは、
  ・必要機能に絞る。
  ・行政サービスついては、「庁舎に来なくてもよい」仕組みづくりを徹底する。
    電話相談(コールセンターも)、住民票等の自動交付機の一層の活用、インター
    ネット経由での行政サービスの拡充など
  ・外に出せる部分は外に出す。
    全部の機能を一つの庁舎内で賄うのではなく、他の拠点での分散処理をした方がよいと
    考えられる機能は、「外に出す」。
 などです。
 これらを徹底的に突き詰めることで、合理的な庁舎・合理的な行政をめざすべきです。
 

 だいたい、現庁舎の総面積約20,000平米に対し、新庁舎の面積が約28,000平米と1.5倍弱に大幅に
 拡がるのはおかしいと言えます。
 これからもっと職員数が減るとされる上、様々な面で合理化が進むはず。
 それなら本来庁舎面積は今より減ってもおかしくない(というより、減るのが当たり前)の
 ではないでしょうか。
 *この辺は、「マンションとの合築」という特殊な形式の影響もあるようです。
  分譲マンション部分も庁舎部分も、通常のマンションのように「区分所有」という形態
  で入ることになりますが、もし庁舎面積が小さければ、災害や何かで共有部分を区の都合
  で使おうとしても、その都度他の所有者の合意が得られなければ、「区の勝手」は通り
  ません。
  これを予め防ぐ意味からも、区は広い面積を確保する必要があると考えられます。


 今回の場合、もし庁舎面積を12,000平米程度に“圧縮”できれば、この12,000平米は区の持分
 なので、計算上区の出費はゼロになります(再開発では、自分が所有する土地面積に応じて
 出来上がった建物の一部がもらえます。今回豊島区がもらえる分は12,000平米なので、この
 部分については“タダ”で取得できることになります)。


 もしそうなれば、現在区が新庁舎の必要コストとしている約120億円は不要になるので、
 この120億円を他に回すことができます。
 私がコンパクト庁舎を主張するのはこんな目的があるからです。


 同じめざすのであれば、「世界に誇れるコンパクト庁舎」をめざしてはどうでしょうか。