「千代田図書館とは何か」を読んで

先日、「千代田図書館とは何か」(http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-0142-2.html
という本を読みました。


著者は、千代田区側の立場で新図書館設立・指定管理者制度導入にあたられた柳与志夫氏です。
千代田図書館と言えば、自治体関係者のみならず注目されている「公共施設」で、私も
大きな関心をもって見ています。
当事者が書いた内容から、何か“秘訣”でも得られないか、というのが読書目的です。


以下、コメントです。


1.現在の公共図書館の問題点


  著者による「公共図書館のどこが問題で、何を変えなければならない」かという点は、
   1)貸し出しサービスしかやっていない(ように見える)。
   2)子ども好きの司書たち
      貸し出し以外のサービスと言えば、子ども向けの「お話し会」程度であり、他の
      潜在的利用層(例えば、ビジネスパーソン)への関心が低いという意味で。
      (「子ども向けサービスがダメだ」という意味ではない)
   3)限られた利用者
      数と利用者層が限定的
   4)新規サービス開発の失敗
      新しいサービスを開発して新規の利用者を開拓するという“サービス業の思想・
      姿勢”がないし、たとえあっても、その能力がない。
   5)専門家の不在
      現状の大部分の「司書」は、“専門家”に値しない。
   6)安易な委託・指定管理者制度導入の横行
      「図書館改革」と言えば、委託等に費用削減ぐらいしか思いつかない。これが
      悪い意味で“流行現象”になっている。
   7)発想転換ができないままの図書館経営
      上記のような「限定的図書館像」しかもっていないため、従来のルーティンワーク
      をこなすのみで、“経営”の体をなしていない。
   8)図書館行政の不在
      一部の熱心な首長を除き、自治体の行政にとっては、図書館は「地位が低い」。


  という8点が挙げられていますが、根底的には、大部分の人間(行政関係者や図書館関係者
  だけでなく、利用する立場の住民も含めて)が、
   「図書館はタダで本を貸してくれるところ(=“無料の貸し本屋”)であり、それ以上
    でも以下でもない。所詮こんなものではないか?」
  という“常識”をもって図書館に接しているからではないでしょうか。


  さて、上記の8つの問題点、見出し(これは著書の表現そのまま)を見ただけでも“刺激的”
  に思えますが、書いてある内容とその表現も結構厳しいです(だから、わかりやすい!)。
  著者が担当中に全国各地からやってきた数多くの見学者について、
    彼らの3分の2ぐらいの人たちは「何も考えていない」
  といった感想など、全国の図書館関係者に対する痛烈な批判(?)とも受け取れました。


2.千代田図書館の特色


  「他の図書館にはない千代田図書館の特色」と言えば、当然、上記の問題点を克服した
  (或いは、そうしようとした)点になります。
    ・コンシェルジュ
    ・神田の古書店との連携
    ・新刊の購入は、原則1冊
    ・Web図書館
  といった千代田図書館の特色あるサービスの背景に上記1があることを念頭に置くと、
  これらは単に「目新しいアイデア」ではなく、しっかりした「図書館概念」に裏打ち
  されたものであることがよく理解できます(と、私は思います)。


  著者は、
   地域の文化・知的情報資源全体を活用するセンターとして公共図書館を機能
   させるという問題意識があった
  と書いていますが、まとめるとこういうことなのでしょうか。


  もう一つ、他の図書館にはない(と、思われる)重要なポイントとして、「図書館は
  “客層”を選ぶべき」との考え方が述べられています。
  文中で言うと、
    新規顧客の獲得に努力する一方で、好ましくない利用者には利用を遠慮して
    もらうことも、図書館全体利用の質を保っていくうえで大変大事なことである
  になります。
  あからさまな“選別”は無理としても、単なる休憩や時間つぶしなどは、上記の
  「知的情報資源全体を活用するセンター」に合わないことは誰が考えてもわかります。
  この“英断”、全国の他の図書館でも徹底されたら、文字通り「革命的に図書館が変わる」
  ことになるのでは?


3.指定管理は、望ましい図書館実現のための手段である  
  
 
  千代田図書館の最大の特色として、一般に指定管理が強調されますが、これがあくまで
  「手段にすぎない」ことがはっきり書かれています。


  著者が、上記1・2から理想の図書館の具体像を描いたとしても、一番のキーポイントは、
  それを実行に移せる能力をもった図書館スタッフ(1からすると、既存の図書館関係者
  では無理!)を確保できるか否かですが、
    従来の千代田図書館で行っていた定期的ローテーションによる一般公務員の異動と
    非常勤・委託職員司書の組み合わせでは不可能
  との判断から、「公務員的枠組みの範囲外」にある指定管理者制を採用したとのこと
  (私が理解したポイントですが)。


  よく、「図書館に指定管理者制度は適切か?」とい議論がありますが、そもそも手段で
  ある指定管理の検討以前に、「どういう図書館にするか(=図書館サービスの内容をどう
  するか)」を検討する必要があるはずですから、「図書館に指定管理者制度は適切か?」
  という議論がいかにナンセンスな議論かがよくわかりました。



「知的情報を最大限活用するセンター」なら、今同図書館が取り組んでいるWeb図書館を
充実させ、「蔵書ゼロの図書館」でもよいはずです(読書は自宅のPCなどによる)。
蔵書をゼロにして、本だけでなく、世の中に“流通”している様々な情報にアクセスできる
ような拠点をつくりあげる。
そうなると、「新しい図書館」をイメージして実現するには、ひょっとすると、「図書館」
という名称ではなく、「情報センター」「学習センター」などの名称の方がわかりやすい
のかもしれない、などとも考えました。