大阪市の事業仕分け(8/29/’09)から

8月29日、大阪市事業仕分けを傍聴してきました。


衆院選投票日前日ということもあってか、2月の事業仕分けの時よりも傍聴者は少な目
と感じましたが、熱心な方々が集まっており、真剣な仕分け作業とともに、非常によい
雰囲気だったと思います。


今回の仕分けについては、事前の資料を見た段階で、私の眼から見て「仕分けがいが
ある事業」が多かったので、個々の対象事業についての議論内容を聞くことを主目的
としました。


以下、率直なコメントです。


1.対象事業の適否について


   上述したように、今回取り上げられた事業は非常に適切なものが多かったと思い
   ます。


   取組み方針や対象事業の細かい内容は大阪市のHPにありますが
   (http://www.city.osaka.lg.jp/shiseikaikakushitsu/page/0000028161.html)、
   「実施方針」の中での
     〜市民・事業者と直接関わりのある事務事業や市民協働の可能性が大きい
      事務事業など、市民や外部の視点で議論することが有意義と考えられる
      事業を各所属において抽出し、〜
   との方針がかなり徹底され、厳選されていたのではないでしょうか。


   このような性格の事業だと、
     ちょっとした工夫
     ちょっとした決断
   で事業の廃止・民営化(市民に委ねることも含め)・改善に踏み出すことが
   できやすいので、市側としても“ルビコン川”を渡りやすくなるのではない
   でしょうか(それを狙っていたのかもしれません)。


   これまで幾つかの自治体で行われた事業仕分けでは、議論の余地が出しにくい
   事業・職員がほとんど問題意識を持っていない事業が出され、建設的な議論に
   まで発展しなかったことが何度もありましたが、今回の大阪市は大違いでした。


   結果が今後にどう活かされるのか、非常に楽しみです。


2.仕分け作業の進行の仕方について


  今回は4つのグループに分かれ、各グループが10事業ずつ議論しました。
  私は各グループの対象事業から計10事業を事前に傍聴対象に選んでいたのです
  が、たまたま第1グループがその中の6つに当たっていたので、これは
  第1グループを主対象とした感想になります。

  今回は、従来にもまして、コーディネーターの進行が極めて適切だと感じ
  られました。
  従来、事業説明後の質問等を仕分け人任せにしておくと、論点の拡散等
  が見られ、「限られた時間の中での内容のまとまった議論」にならない
  ことがよく見受けられました。
  今回は、事業説明後にコーディネーターが「最初に私から・・・」と断って
  ポイントとなる点を質問するなど、コーディネーター中心に議論の整理が
  円滑になされていたと思います。
  市民仕分け人の活用についても、「市民の立場から、これはどう思うか?」
  など、要を得た質問がコーディネーターからなされる場面もありました。
  

  仕分け人の質も大切ですが、事業仕分けにおけるコーディネーターの
  役割の重要性を改めて痛感した次第です。
  *この点は、このブログでもたびたび指摘させていただいてきた点です。


  きっと地方自治体(特に市町村)の事業仕分けはこのような形がよいの
  でしょう。
  ただ、国の事業仕分け等、仕分け人に“大物”(?)が入ってくるような
  場合は、どうしても「有効な出番」を確保しなければならないので(特に
  国の場合、帰納的な議論よりも、理念で押していかなければならない
  ケースもあるようなので)、コーディネーターの機能を少々控えめにする
  必要もあるかもしれませんが・・・


3.個々の事業の仕分けを通して考えたこと


  以下、幾つかの事業についてです。


 1)生涯学習相談員

 
   名称の通り、市民の生涯学習に関わる方々ですが、市内各区役所に配置
   されたこの相談員(月10万円の有給職務)の他、ボランティアで計1,200名
   の生涯学習推進委員が存在しているので、 
    ・あえて専属の有給職員をおく必要があるか?
    ・生涯学習推進委員・区役所の他の職員で仕事をカバーできないか?
    ・現在の仕事の内容は、月10万円に見合うものなのか?
   といった点が議論の中心になりました。


   資料や説明からは、
    ・どうしても必要な専門性をもった職務である。
    ・今やっている仕事はちゃんと内容がある(=暇ではない)。
   といった点について納得のいく明快な回答がありませんでしたが、「生涯学習
   相談員の一日」みたいなはっきりしたポイントをつかんでいる訳ではないので、
   仕分け人の中でも「まあ仕様がないか?」といった感じで(私の受け止め方)
   「市がこれまで通り実施するが、改善が必要」との結論になりました。


   しかし、全面的な事業廃止は無理としても、24ある区役所の中、「試験的に
   2〜3の区で廃止して様子をみてみる」といった、「モデル的な事業縮小」
   は考えられるのではないでしょうか。


   【今後への教訓】
    事業が複数拠点でなされている場合は、「一部でモデル的に廃止してみる」
    といった突っ込みもあるのでは?


 2)成年後見支援センター事業


   “予習”のために資料に目を通した際、「ものすごく意義のある事業」か、
   「勇み足的事業」なのか、判断がつかずに興味をもった事業です。
    
    
   通常、成年後見人と言えば、財産管理などの点から、弁護士や司法書士
   イメージされますが、大阪市では市が主催する「市民後見人養成講座」を
   受講した方に、市民後見人として活動してもらうとのこと(しかもボランティア)。
   他の自治体にない“先進的な”事業であることはまちがいありません。


   しかし、内容をきいてみると、
   「専門職の後見人(弁護士等)を補完し、身近な立場からの安心感を与えて
   くれる」存在とのこと。
   いわば、専門職の後見人への“つなぎ”的な位置づけなのでしょう。
   市の講座を受講したとは言え、素人に「市が認定した後見人」との公的
   資格を与えた場合、金銭トラブル等があった場合(故意ではなくても)の
   責任はどうなるのでしょう。
   案の定、仕分け人からもこの点に関する不安の声が上がりました。


   少々厳しい指摘になりますが、「中途半端なセミプロをタダで使う」
   という姿勢は改める必要があるのではないでしょうか。


   もし今のようにあくまで「専門職への補完」であれば、地域の事情に
   通じた民生委員や保護士・町内会などに“補完”をお願いすることは
   不可能ではないと思います。
   仕分け結果と同様、大いに改善が必要と考えます。


   【今後への教訓】
    「無償のボランティア活動」が盛んなのは、確かに自治・協働の観点
    から言えば意義のあること。しかし、何でもかんでもボランティアに
    頼ってしまうのは危険。
     「行政が責任をもってやる範囲」
     「行政が関わるが、ボランティアの自主性に任せる範囲」
     「行政が一切関わらない範囲」
    の基準・区分の設定が必要では?


 3)すこやかOSAKA推進プロジェクト


   大阪市の健康に関する目標である「すこやか大阪21」の指標達成に向けて、
   市民の健康づくりへの普及・啓発を主たる活動とする事業です。


   この種の事業は、得てして「行政としてちゃんとやってますよ」という
   アピールをしたいだけのものが多いようですが、この事業も仕分け人から
   同様の判断をされ、不要との結論を出されました。


   成果として、市民の健康意識の高まりを示す行動指標の数値が出されましたが、
   それは何も「この事業があったから」とは言えないと思います。


   健康だけに限らず、「普及・啓発事業」は目的の数値との間に明確な因果
   関係が認められない限り、極力やめる(或いは、お金をかけない)姿勢が
   必要と感じました。


 4)大阪港の利用促進


   今回の仕分けに際し、最も関心のあった事業です。
   港湾の活性化は、一都市の問題ではなく、本来世界的な競争環境なども絡めて
   考えるべきもの。
   自治体単位で考える事業仕分けになじむものか、なじむとして、仕分け人の方が
   どう“料理”するか、この点に関心がありました。


   仕分けの結論は、私が論点を予想した通り、「一大阪市でどうこうできるもので
   はない。国・府・地域(他市を交えた)で考えるべき」とされました。
   

   もしかすると、今話題の道州制の中で議論するのが適当なのかもしれません。
   「関西経済圏の中で大阪港をどうするか?」といった視点からの専門的な議論が
   必要と感じました。