「電子政府・電子自治体への戦略」を読んで

ちょっと遅れての“書評”ですが、廉宗淳(ヨム ジョンスン)氏の著書
電子政府・電子自治体への戦略」(時事通信社)についてです。


「この本に非常に刺激を受けた者の一人」として、どうしても書きたいと
思いました。


いろいろな読み方があると思いますが、この本から私が得たポイントは、
 ・システム構築に当たって最も重要なポイントの一つはBPRである、と
  理解できた。
  *BPR:Business Process Reengineering
 ・「BPRとは何か?」について、ポイントを理解できた(本人の認識ですが)。
といったところでしょうか。


「韓国のシステムがすごい!」というのは、よく聞く話ですが、その“すごさ”は、
BPRに時間をかけて徹底的に行ったからだということがこの本でよくわかりました。


BPRは、「業務プロセスを分析して、合理的な改善提案を出す」ということ
ですが、この本の最後で取り上げられている沖縄県浦添市の新システムで言えば、
例として出されている「就学援助」で見ると、
(非常に大雑把で多少正確性に欠けるかもしれませんが)

  
 従来は、就学援助に必要とされる
  1)申請書(学務課)
  2)住民票(市民課)
  3)納税証明書(納税課)
 の3つを、申請者の住民が、各窓口から取り寄せて提出していた。
 (⇒3つも窓口を回る必要あり)


 これを、
  窓口を「学務課だけ」とし、学務課が「行政内情報」である??(所管は
  他部署)を端末でチェックするのみの形に変えた(⇒窓口は一つ)。
  *必要な情報を元に「審査する」のは従来と同じ。


  これで完結できるようになれば、
   ・1)2)3)をわざわざ集めるために3つの窓口にアクセスしていた住民
    の手間・コストが省ける。
   ・役所内で「紙データ」として回されていた??が不要になったので、
    これをプリントアウトして運搬する手間・コストがなくなった。
    (住民からのオンライン申請が可能になれば、?も不要になる)
   ・その結果、住民の利便性の向上と役所の業務の合理化が達成できた。
  となります。


「韓国のシステムがすごい!」のはこのようなBPRを、自治体・国の手続き
等のいろいろな場面で進めたということなのでしょう。
(単に、ハードが「レガシー → オープン」ということではないと理解しました)


そして、「韓国がすごい!」のは、「役所内のシステム」を変えただけでなく、
これに民間も巻き込んだシステムをつくった点と言えます。


上記の例で言うと、例えば、
   2)住民票
   3)納税証明書
については、「銀行もアクセス可能にした」という点です。
これによって、例えばある人間が銀行に何かの手続きに行った際、従来必要
だった?や?が不要になり、役所の手続きだけでなく、「利便性の向上の範囲
が拡がった」ということになります。


そして、「自治体のシステム構築に対する国の関与」で言うと、日本が「自治
任せ」なのに対し、韓国は国が主導してモデルをつくり上げ、各自治体に一気
に普及させるため、
  自治体間のシステムの標準化
  国と自治体間のシステムの連携
が極めて合理的に進められたようです。


さて、このBPR、「(システムの)玄人だけが関わるところ」ではありません
(と、私は理解しました)。
「どのようにしたら実際の手続き等が合理的になるか?」ですから、素人の
率直な意見・アイデアも重要になるはずです。
現に、この本にも、浦添市では、検討したBPRの内容について、市民に
パブリックコメントを求めた、とあります。


もう一つ、最後の「おわりに代えて」(P195〜)の中で、著者は、佐賀県における
現在の取組みについて触れています。
 

佐賀県庁の情報システムを合理的に再構築するとともに、
 「佐賀県内の市町村のシステムを一本化して、共同利用化を推進する」
とのことです。


日本全国の全ての市町村が、「各自の努力で、自前の独自システム構築をしようと
する」ことほど非合理的なことはありません(全ての市町村が、金も人も十分に
もっている訳ではありませんから)。
ですから、私はこれまで、「都道府県が中心となって、市区町村のシステム構築を
合理的に進めるべき!」との主張をしてきました(東京23区でこれが実現できれば、
どれだけコストダウンが図れるか!?)。


著者の佐賀県における取組みは、この意味で「日本のモデル」になるのではない
でしょうか。


という訳で、「非常に刺激を受けた本」です。