「国の事業仕分け」傍聴記(2)-手法の面で参考になったこと

今回の事業仕分けは、
 ・仕分け人の数が多かった(通常が5人ぐらいに対し、約20人)
 ・対象事業の関連分野の“有識者”が、仕分け人として加わっていた
 ・一事業あたりの時間が長かった(通常30分弱が、1時間)
 ・仕分け人の中に、対象の役所の議員がいた(国会議員)
といった点で、従来の事業仕分けとは異なるやり方がなされました。


当然と言えば当然ですが、やり方を変えると、事業仕分けの内容自体も変わる
ものです。
これまでの事業仕分けとの比較の観点から、今後の事業仕分けの参考になる点を
いくつか挙げてみたいと思います。


1.「強いコーディネーター」が必要!


 今回、2つのグループ中、第一会場は河野太郎議員がコーディネーターを務め
 られました。
 個人的な感想ですが、事業内容の把握・論点の提示・進行管理等の面で非常に
 すばらしいコーディネートをされていたと思います(私は別に河野議員ファン
 でも自民党支持者でもありません。一傍聴者として、率直な感想を申し上げた
 までです。念のため)。


 なぜすばらしかったか?
 もちろん、個人的な資質によるところが第一なのでしょうが、もう一つの
 大きな理由として、説明者(事業を説明する職員。今回は文科省の職員)に
 対して“強い立場”にあったことが挙げられると思います。


 これまでの事業仕分けの場合、ほとんどはその自治体以外の人間が
 コーディネーターや仕分け人になっています。
 コーディネーターは、全体が有効な議論となるよう、論点の抽出や進行のため
 の指示も行いますが、説明者への指示の場合、時にはムダな説明の打ち切りや
 説明のやり直しを命じる(?)こともあります。
 そうなると、雰囲気的にコーディネーターに反発が集中することにもなりかね
 ません。 
 「外の人間が何を勝手なことを言ってんだ!」という類の反発です。
 この辺の“駆け引き”の面で、これまでコーディネーターの方が大分ご苦労を
 されているようでした(もちろん、仕分け人にも同じようなことが言えますが)。


 今回の場合、説明者にとっての相手(コーディネーター)は、議員としてその
 事業の成立に関わったり(=立法府の一員)、予算を決める立場の人間ですから、
 決して「外の人間」ではありませんし、国という同じ組織の中で事業の執行を
 厳しくチェックするのが本来の役目である以上、説明者にとっては「厳しく
 言われて当然」の相手と言えます。
 従って、“強い立場”を確保して、効率のよいコーディネートができた面がある
 ものと考えられます。


 ここから考えると、今後各自治体を対象に事業仕分けを行っていく場合、この
 ような「強いコーディネーター」の確保が必要ではないでしょうか?
 ただ、必要性はわかるとしても、問題は「じゃあ、誰が適当か?」という点です。
 理想的には、その自治体議会の議長がよいのでしょうが、多くの議会においては
 議長は有能だから選ばれる訳ではないので(大体は“順送り”で選ばれる名誉職
 みたいなものです)、能力・資質の面で適当と言えません。


 では、どういう人間が適当か?
 一概には言えませんが、
  ・その自治体に対し(特に役所に対し)、一定の影響力をもっている。
  ・客観的な判断ができる。
  ・仕分けの議論をコーディネートできるコミュニケーション能力をもっている。
 などの要素を備えていれば、地位や役職は問わないでしょう。
 数としては少ないかもしれませんが、これまで私がお会いしてきた様々な自治
 の「地域の“実力者”」の中で、このような条件に該当する方が何人かいたと
 思います(今にして思えば)。
 このような方が見つかれば、恐らく理想的な事業仕分けができる気がします。


 *コーディネーターが理想ですが、仕分け人の一員でもよいかもしれません。
或いは、「“サブ”コーディネーター」?


2.仕分け人の中に、特定分野の有識者が加わることについて


 同じ第一会場では、仕分け人として、「“凄腕”仕分け人」の自治体職員の方の
 他、前杉並区立和田中学校長・藤原和博氏などの教育分野の“有識者”が
 加わっておられました。
 これまでの事業仕分けと比較して考えると、これらの有識者の方々の発言は
 非常に“重かった”ように感じられます。


 従来の「“凄腕”仕分け人」の議論が十分でないという訳ではないのですが、
 現場の経験者として「文科省の施策はこの点で現場に合わない!」と指摘する
 と、現場にいない文科省職員としては、それに対して反論できない雰囲気が
 会場全体を通して生れてくるようでした。


 私は、説明者・傍聴者も納得した上で結論が出されるのを理想と考えますので、
 この「全体が納得した雰囲気づくり」のために、今回のような特定分野の
 有識者の必要性を考えた次第です。

 
 ただ、自治体の事業仕分けの場合は、同じ日に、教育だけでなく土木・福祉
 総務など、様々な事業を対象としますから、それに合わせて有識者を加える
 ことはかなり難しいでしょう。
 

 困難を承知の上で、あえて「“重装備”の必要性」を考えた次第です。