「国の事業仕分け」傍聴記(1)-国の事業についてわかったこと

8月4・5の両日、国レベルとしては初めて行われた事業仕分け文部科学省)を
傍聴してきました。


今回は、自治体と比べて“重厚長大”である国の事業が対象ということも
あってか、一事業にかける時間が1時間程度である上(通常は30分弱)、
仕分け人には「その道の専門」の有識者も加わったため、大変興味深い議論
を聞くことができました。
 *仕分け人・対象事業は以下の通り。
  「仕分け人」
   http://www.kosonippon.org/project/detail.php?m_category_cd=16&m_project_cd=679
  「対象事業」
   http://www.kosonippon.org/temp/schedule0801.pdf


私にとって非常に多くの教訓がありましたので3回ほどに分けて記してみます。
まず、「国の事業についてわかったこと」を思いつくままに書きます。


1.政策を立てる前に、全国各地の実情をできるだけ把握することが重要では?


 当たり前のことですが、今回の議論でこれを痛感しました。


 例えば、「豊かな体験活動推進事業」。
 目的は「児童生徒の豊かな人間性や社会性を育むために、自然の中で集団
 宿泊体験活動」等を行うことであり、そのために、「他校のモデルとなる
 様々な学校を指定」してその活動にお金を出す、のが主な事業内容です
 (H20年度総額:10億円強)。


 文科省職員の事業説明の後、早速次のような発言がありました。
  ・NPO活動に従事している方:
   「同趣旨の活動を既に以前からやっている。各地で有効に継続的して
    いるこのような動きは既にあるはず」
  ・市長経験者:
   「地域の力を借りながら、子どもが何十キロも歩く行事を市主催で
    行ってきた。なぜ地域の力を借りないで学校だけに目を向けるのか?」
 
 
 これを受けて、「どの程度全国の実情を把握しているのか?」との質問があり
 ましたが、それに対して「的確に把握している」との回答はありませんでした。
 実情も把握せずに演繹的に理想を掲げて事業を進めるというのは、現実にマッチ
 しない恐れが大きく、非常に危険ではないでしょうか。
 「結果としてのムダ」の発生源はこんなところにあるものと考えた次第です。


2.「事業をやった効果をどう考えるか?」について


 これも上記の「豊かな体験活動推進事業」の中でのことですが、事業を行った
 ことによる「成果実績」として、「体験活動をしている平均日数」が挙げられ
 ており、これに対して、
  「日数が長ければ“豊かな体験”と言えるのか?」
 との質問(指摘?)があり、日数の長さと豊かさの因果関係についての明確な
 回答はありませんでした(私の認識)。


 もちろん、全てを数値化して測定することはできませんが、実績や成果は事業
 の目的に合った形で立てられるべきであり、明確な関係性もない事象の数値を
 「実績です!」ともってくるのは、「実績のでっち上げ」につながりかねません。


 考えてみると、実績や成果として、イベントの回数やイベントへの参加人数
 が取り上げられることが多いのですが、議論すべきは“問題の本質”です。


3.事業の目的はあくまで具体的・実効的なものであるべき!


 上記の「効果をどう考えるか?」と同じようことが目的についても当然言えます。


 「都市エリア産学官連携促進事業」なるものがありました(H20年度総額:46億円)。
 地域の大学と中小企業などが連携して(=クラスター)、新技術・新製品づくり等
 をめざしていくもので(私の認識)、実績として、各クラスターの生み出した
 代表的な製品・技術等が紹介されていましたが、
  「じゃあ、その売り上げなどはどう考えていくのか?」
 との質問には、「具体的にとらえていない」そうです。
 さらには、「ネットワークづくりが本来の目標」との趣旨の回答が加えられました。


 新技術・新製品を生み出すために投資をする(国の予算を注ぎ込む)のですから、
 投資に見合った金額的な効果が重要な目的の一つとみなされるべきです。
 ネットワークづくりがいくら進んでも、実際の事業に結びつかなければ意味がない
 のではないでしょうか。


 改めて考えてみると、事業が開始される際の当初の目的が「ネットワークの形成」
 や「啓発」などとなっているものが結構あるようですが(国だけでなく)、それら
 は目的に至るまでの過程・状況であり、決してめざすべきゴールにはなりえません。 


4.「全国一斉調査」は、ムダと余計な手間・コストを生み出す恐れが大きい!


 「児童生徒の体力・運動能力向上に向けた調査分析」という事業がありました
 が(H20年総額:3億3千万円強)、なんと、「全国全ての小5・中2を対象に、
 体力テスト等をやらせる」ことを成果目標にするのだそうです。


 早速、学校長経験者から、
 「これをやるために体育の時間がどれだけ潰れるか認識しているか?」
 といった質問がありました。
 

 毎年やる訳ではないから「個人の指標づくり」にはならないし、「平均的傾向を
 調べる」のであれば、サンプル調査で十分のはずです。
 あえて“全国一斉”は必要ないと考えられます。
 調査する側の満足度を向上させるために調査される側・関係する人間が負担を
 強いられるのは、どう考えても合理的とは言えません。
 「安易な全国一斉調査」は地方・現場の負担を増すだけです。
 (この作業に要する教員の人件費を算出して合計してみると、相当な額になる
  はずです)


 なお、この議論中、「議員が余計な口を出すからこの種の調査が増えるのだ」
 との指摘がありました。
 国会で「全国はどうなっているのか?」と追及されれば、国からの依頼が学校
 に来る。
 それを知った都議会議員(東京都の場合)が「東京都はどうなっているのか?」
 と追及すれば、今度は東京都からの同種の調査依頼が別に来る。
 そして区議会でも同じ事が起こって、区からも調査依頼が来るようになり、
 結果として学校にとっては「3重の手間になる」のだそうです。
 

 昨今、地方議員のあり方・レベル等が問題視されていますが、こんなところにも
 「思慮のない議員の弊害」が及ぶのだと改めて認識した次第です。


5.「組織づくりを伴う事業」は地域活動の硬直化を招く!?


 「総合型地域スポーツクラブ育成推進事業」(H20年総額:7億3千万円強)の議論
 中、この事業が各地での新組織設立に結びつくことと関連して、
  「国が何かやろうとすると、それに付随した組織が形成され、そのような形で
   数多くの組織が出来上がるが、その構成員を見ると、地域の“有力者”的な
   人間がどの組織にも共通しており、その結果として、多くの地域の組織が
   同じ顔ぶれで構成されることになる」
 との指摘がありましたがまさにその通りでしょう。


 国のお声掛かり故、それらは「“準公的”な組織」と認識され、一旦つくられると
 なかなかなくなりません。
 その結果、様々な地域活動に関わる組織が同じ人間で占められるようになり、
 「新規参入」を阻むようになります。


 地域の安易な組織づくりを招かないよう、国の事業には配慮が払われるべきです。
 (もっとも、そのような実態を知らないからからこそこのような事業が継続して
  きたとも言えます)


6.国の事業の仕分け方について(攻略法?)


 今回のこの事業仕分けを見るまで、「国の事業仕分けは結構難しいのでは?」との
 “先入観”が私にはありました。
 しかし、例えば上記の視点から切り込むと、少なくとも文科省の今回のような事業
 については、「事業仕分けの傾向と対策」が見出せそうだと感じました。
 

 例えば、都道府県や市町村に委託する形の補助事業等については、
  ○地方の実情をどれだけ知っているか? →あまり知らないことが多い?
  ○事業の具体的な効果をどう考えているのか? →抽象的な目的が並べられて
                         いることが結構あるよう
                         なので、十分指摘できる。
  ○補助の期間が過ぎたらどう継続するのか? →「がんばってもらう」しかない?
 などの論点が明確に出てきます。


 全てが今回のようにいくとは限らないでしょうが、各省庁ごとに少しずつ積み重ねて
 いけば「大きなコストカット」が十分実現できそうな気がしてきました。