「事業仕分け研修会」から考えたこと
7月7日、東京財団で行なわれた「事業仕分け研修会」を見てきました。
これは、同財団が行っている自治体職員を対象とした研修プログラムの一環を
公開したもののため、外部の人間はあくまで「見るだけ」です。
今回行われたのは実際の事業仕分けではなく、研修生に事業仕分けを体験
させる「模擬仕分け」だったので、“凄腕”の仕分け人によって行われる
実際の事業仕分けの時のような満足感(見ている方が感じるもの)はあり
ませんでしたが、実演したのが素人の仕分け人たち(失礼!)だからこそ、
かえっていろいろと考えさせられる点がありました。
1.仕分け人には「多様性」が必要
会場からの質問に
「結論が3つとも現行通り・要改善で、予定調和的だ」
という趣旨のものがありましたが、確かにその通りです。
どの仕分け人も言っていることが同じでは、結果として「均質の評価」しか
行われません。
もちろん、実際の事業仕分けでは、上記のようなことはありませんが(私の
見てきた範囲)、改めて、価値観が多少違う仕分け人同士による議論が必要
と感じた次第です。
仕分け人のキャラクターで言えば、例えば、
A「漸進的改革」タイプ
現状を土台として少しでもよい方向に進めようとする。
B「ベンチャー」タイプ
「こんなのどう?」とばかり、新しい事例やアイデアを次々と
ぶつけていく。
C「冷静な過激派」タイプ
あくまで理詰めに議論を進めながら(これは仕分け人である以上
当り前)、不要・民間(=行政にとっては現行事業を否定される結論)
にもっていこうとする傾向をもつ。
などがミックスされた議論であれば、議論の内容が深まる上、見ている方
(傍聴者)も納得するのではないでしょうか。
もちろん、これは議論の題材である事業自体が「それに相応しいもの」
でなければなりませんが・・・
*この「キャラクターのミックス」、実際は仕分け人チームの中で多少
行われているのかもしれません。
2.説明者(事業を説明する当該自治体の職員)に必要とされること
今回は研修生が即席で説明者役をやっていたため、仕分け人の質問に答え
られない場面が多々ありましたが、よく考えると、実際の事業仕分けでも
似たような場面が結構見かけられます。
仕分け人の方たちは、事業内容の把握・問題点や論点の抽出に相当事前準備
を積んでいるようですが、説明に当る職員の方はどうなのでしょう。
本来なら「役所を代表して説明にあたる」(実際はそんな権限はないにしても)
ぐらいの“気構え”をもってもらわないと、仕分け人からの質問に答えられない
のではないでしょうか。
場合によってはその事業が不要とされることもある訳ですから、仕分け人側が
よく質問する
・事業が始まったもともとの経緯
・「今後どうするのか?」という自治体の基本方針
などの基本事項に対しては、淀みなく答えて然るべきです。
それを、
「今担当しているだけだから知らない」
「現場の人間だから役所の方針は知らない」
というような答えをされては、見ている傍聴者にとっては面白いかもしれません
が、「有効な議論」はできません。
「説明者の質の確保」の重要性を再認識しました。
*このような「質の確保」ができない場合は、以前にこのブログでも書いた
通り、「頼れる助っ人」を置いて補助する形にすべきです(行革・財政の
担当者など)。
3.事業を始める前にそもそも考えるべきこと
以下は、事業仕分けとは直接関係ありませんが、感じたことです。
今回、仕分け対象となった事業に、長野県塩尻市の「古田晁記念館運営事業」
というものがありました。
仕分けの議論を聞いていて考えたのですが、そもそもこの事業、将来のどういう
状態をイメージして始められたのでしょうか?
「市民が多数見に来るようになる」とか「観光客がたくさん来るようになる」
など、本来事業は「何らかの理想の状態」を想定して始められるはず(べき)
です。
しかし、実際は違うのかもしれませんが、聞いている限りでは「何となく始めた」
ようにしか思えませんでした(私の解釈)。
今豊島区で計画されている「都市再生」「地域活性化」を目標とした諸事業も、
始める前に具体的な成功のイメージ(単に「活性化する」でなく、「来街者が
○万人増える」とか、「商店の売り上げが○%アップする」などの数値的な目標
も含めて)を備えなければ、始めるべきではないと改めて思いました。
このような具体的なイメージがなければ成功・失敗の判断ができませんし、
第一目標自体がないので、どこまで事業を続けるか、どこで撤退するか、の判断
が困難になります。
民間と自治体の事業は同じではないでしょうが、民間の場合、
「この事業で○○億円利益を上げることを目標とする。○年たっても目標を
大幅に下回ったままだったら、撤退する」
などの成功イメージ・撤退の判断ポイントがあるはずです。
今の時代、このような「事前の想定」が、自治体の事業にも求められていると
考えます。