千代田図書館に見る「民営化の“妙味”」

先日、昨年から話題の千代田図書館の仕組みについて話を伺う機会があり
ました。
結論として、私が考えたのは、この図書館は公共施設民営化(現在は
指定管理)の非常にユニークな成功事例として残るのではないか、という
点です。


一般的なマスコミ報道等ではコンシェルジュが有名ですが、それよりも、
欲しい情報・ものにアクセスしやすくする仕掛けづくりがここのポイント
だと理解しました(総合的な意味で)。


そして、ユニークなのは、このアクセスには無料だけでなく有料も含まれて
おり(図書館が金を取る訳ではありませんが、「払ってもよい」という人には
“オプション”(?)を払ってもらう形)、有料の場合はそれが具体的な
ビジネスに結びつく点です。
例えば、
 ・新品図書購入案内サービス
   新刊(図書館は原則1冊しか購入しない)をはじめ、所蔵がない・
   貸し出し中などのために“在庫”がない本については、欲しい人が
   確実に買えるよう、図書館が購入を手助けする(=書店につなぐ)。
 ・出張古書店コーナー
   神田の古本等を月替わりぐらいで展示し、欲しい人には図書館が
   購入を手助けする(=古書店につなぐ)。


昨年11月から始まったWeb図書館(インターネットで電子図書を借りる)
についても、貸し出し中・順番待ちの場合、希望者は直接出版社から
電子本を買うことができます。
この電子本については、何が売れるかまだわからないため、出版社に
とっては格好のテストスペースなのだそうです。


これらから、この図書館は「ビジネスをつくる実験場」とも言えると考え
ました。


この他、“民間”故の強みだと感じたのは、情報システム面をフレキシブル
に変更・構築できた点です。
今年4月に既存のシステムを別会社製に変えたそうですが、その際、通常なら
多額となるデータ移行費用について、交渉の結果、「合理的な範囲」に抑える
ことができたとのことでした。
*ある方によれば、このような極めて専門的・技術的な交渉等については、
 既存の公務員は不向きであり、従って、「業者の言いなり」になる傾向が
 大きいそうです。


さて、ここから、「よい民営化を実現するにはどうすればよいか?」を
考えました(自治体側の立場で)。
千代田図書館の場合は、ユニークな提案ができる優秀な企業を選び、そこに
自由に(?)仕事をさせたことがポイントのようなので、以下のことが
言えると思います。


?優秀な企業が応募してくるような案件を出す(or仕立て上げる)。
   千代田図書館には複数社が応募したそうですが、それはどの企業も
  「ここが主戦場」と見たからでしょう。
   何の変哲もないただの公共施設を案件として出しても、「安かろう悪
  かろう」的な企業しか来ない気がします。
   たとえ古い施設であっても、「自治体の入れ込み度」が大きければ、
  優秀な企業を引っ張り出せるのではないかと思います。


?企業に与える“ミッション”がユニークさを引き出すものでなければ
 ならない。
   千代田図書館に区から与えられたミッションは、「日本一の
  図書館をつくってくれ」ということだそうです(細かい点は除く)。
   これを、普通の図書館みたいに「来客を多く、貸し出しを多く」など
  としたら、「限りなく無料の貸本屋に近づいた図書館」しかできない
  でしょう。
   ミッションがいい加減だと、よい結果は生れないと考えます。


?企業側に「創造の余地」を与えること。
   目標の提示までは自治体がやるとして、そこまでの達成手段は企業側
  に任せることが必要なようです。
   それを「これをやれ」「あれをやるな」と細かい制限をつけたら、
  ユニークな発想・手法は生れなくなるのではないでしょうか。


以上、ユニークな民営化の事例として注目した次第です。