書評:「日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条」を読んで

非常に参考になり、かつ、大いに刺激を受けた本の紹介です。


「日本をIT二流国家にしないための14ヵ条」(木下敏之著、日経BP)。


著者の前佐賀市長・木下氏(http://www.kinoshita-toshiyuki.net)は、
行政関係者の中では、数々の先進的な施策を実現させた人物として注目
を集めている方です。
実は、昨年来、何度か木下氏のお話を伺う機会があり、そのたびに質問も
させていただきながら、大いに“吸収”させていただいていました。
このたびの著書は、私にとってそのまとめの意味もあり、大きく役立った
訳です。


本のタイトルだけ見ると、自治体向けITシステムを解説した一般の行政関連
書籍のようですが、この本の真骨頂はIT導入ではなく、それを使って
 「どうやって行政組織・文化・人の考え方を変えていくか?」
 「どうやって住民の生活、そして、その意識を変えていくか?」
というところにあると考えます(私の理解)。


本の中で指摘されているように、「IT化と同時に業務の改善を行い、組織の
再編成までも行」うことが必要であることは、理屈の上では誰でも頭に
浮かべることですが、役所の職員の保守的な考え(人間的に「真面目」
「不真面目」、或いは、「よい」「悪い」とは別問題として、大部分の職員
は本質的に保守的と見るべきです。議員にもこの手の輩が多いのは残念です)
とそれによる“抵抗”を押し切って進めることは至難の業であり、そこに
至る心構え・具体的な手法などが、ご自身の体験を踏まえて具体的に記されて
います。


また、住民にとってメリットのあるIT化についても、韓国との比較の中から、
佐賀市での体験・ご自身の構想等が、具体的に書かれています。


もう一つ、この本を読んで考えさせられたのは、木下氏が大いに刺激を受けた
という韓国の行政の仕組みです。
一言で言えば「中央集権的」ということでしょうが(もちろん全ての面でそう
ではないのかもしれません)、そのメリットを最大限に活かしているようです。
自治体のITシステムとそれに関わる行政の仕組みなど、中央(=国家)が大きく
(?)投資をして、それを自治体共通の標準とするなど、効率化と改革の
スピードアップの面から見ると、ものすごく大きなメリットがあると思います。
この点、近年の日本で叫ばれている「地方分権」や「地方の自主性」など、
その理念と現実のあり方をごちゃまぜにすると、大変なデメリットが生じる
であろうことも認識できた気がします。


最後に、これらの構想を自治体の現場で現実化するに最も必要なことは何か?
それは、トップ(=首長)の意欲と能力です。
以前から、全国の様々な首長の方々とお会いし、そのお話を伺うように努めて
いますが、同じ課題を語るにしても、やはり、意欲・能力の面で秀でた方と
そうでない方では「雲泥の差」があります。
金や地縁ではなく、「有能な人間が首長に選ばれやすい仕組み」がなんとか
できないものか、「仕組み論」として考えていきたいと思いました。